古くからの街並みには,今も長屋の住宅が多く残っています。落語などでも長屋の住人をめぐる楽しい噺がたくさんあります。
しかし,近年は,長屋の建物の老朽化に伴い,長屋の一部を切り離し(解体し),更地にして新しい建物を建てる例も多く見られるようになりました。
そのような場合,法律的にはどのような問題があるでしょうか?

例えば,いわゆる五軒長屋で土地と建物が分有の場合,すなわち,土地・建物双方について,5軒それぞれ別々の所有者がいて,それぞれ所有権について登記をしているような場合,各所有者が自由に自分の所有する建物の部分を取壊し,新しい建物に建て替えるといったことはできるのでしょうか?
普通の一戸建て住宅なら,自分の所有する建物を取壊し,建替えるといった場合,隣や周囲の住宅の所有者に対し,「工事中騒音などご迷惑をお掛けします。」といったことは伝えるとしても,隣の住宅の所有者の承諾がなければ,自分の建物を取り壊せないといったことはありません。

では,長屋でも,土地建物を自分が所有していれば一戸建てと同じなのでしょうか。
長屋は,法律的には「連棟式建物」とされており,構造上は1つの建物を区切って使用し,その部分を所有しているものです。一戸建て住宅と異なり,基礎・土台,外壁,柱,境界壁や,梁,屋根,屋根を支える棟木,母屋,桁などは,長屋全体で1つのものとして建築されています。そのような構造の長屋について,土台や棟木,屋根を切り離し,一部を取り壊すことが自由にできるのでしょうか?
そう考えると,長屋は一戸建てではなく,分譲マンションの構造と類似することが分かってきます。分譲マンションも,1つの構造の建物について,専有部分を区切って,それぞれ所有しています。この仕組みは長屋も分譲マンションも同じです。
では,分譲マンションの1室を所有する人が,自分の住戸の部分の柱や梁,バルコニーなどを壊すことができるでしょうか?当然できません。そんなことしたらまさにアカン警察です。実は,長屋には,分譲マンションと同じ,建物の区分所有等に関する法律(区分所有法,マンション法)が適用されることとされています。

いわゆる長屋の切り離し(一部取り壊し)の違法性について判断した,東京地方裁判所平成25年8月22日判決(判例時報2217号52頁)は,土地が分有である連棟式(棟割式)区分所有建物についても、一部建物の区分所有者が分離、建替えを行うには、区分所有法の適用がある,と述べています。
では,区分所有法の適用があるということは,長屋にとってはどういう意味をもつのでしょうか?この裁判例をもとに,引き続きご説明します。
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