不動産鑑定士というと,「不動産の登記をするんですよね。」,「測量されるんですか。」,「土地の仲介されるんですか。」といったご質問を受けることがあります。
おそらく,司法書士,宅地建物取引士(宅建士),土地家屋調査士といった,不動産関連の他の資格の方が歴史が長く,日常生活にも身近な仕事であることから,こうしたお話をいただくのだと思います。
不動産に関してもいろいろな仕事,資格があり,それぞれの仕事のフィールドで「餅は餅屋」の重要な役割を担っています。
それぞれの資格について概略を見ていきたいと思います。
○宅地建物取引士(宅建士)
宅地建物取引業法に基づく宅地建物取引士試験に合格し,都道府県知事の登録を受けている国家資格です。不動産の取引(売買,賃貸借,交換)が業務のフィールドです。宅建業者(いわゆる不動産屋さん)には,各支店や営業所ごとに,従業員の5人に1人以上宅建士を置くこととされています。
宅建士試験では,民法や宅建業法のほか,建築基準法や都市計画法について問われます。宅建士はそれらの知識をもとに,宅建業者が自ら不動産の取引(売買,賃貸借,交換)をしたり,取引の仲介をするにあたって,取引の対象となる不動産について説明した重要事項説明書に記名・押印し,その内容について買主・借主に説明を行い,また,売買契約書に記名押印するなどしています。これらの宅建士の業務は,不動産の取引に際して,トラブルを防ぎ,不動産取引が適正に行われることを確保する役割を果たしています。
○司法書士
原則として司法書士法に基づく司法書士試験に合格し,司法書士会に登録をする国家資格です。業務の中心となるフィールドは,不動産登記・商業登記申請の代理業務で,不動産の売買などにあたっての名義変更・抵当権設定などの不動産登記(権利部の登記),会社の設立・役員変更などにあたっての商業登記が正確かつ円滑に行われるための重要な役割を果たしています。また,供託の代理,裁判書類の作成も司法書士の業務となっています。
法務大臣の認定を受けた司法書士(認定司法書士)は,簡易裁判所における民事訴訟手続の代理(いわゆる簡裁代理権)も行うことができます。簡易裁判所では争いの対象の価額(訴額)が140万円以下の訴訟を行うことができます(例えば140万円の貸金を返せ,という訴訟は簡易裁判所に提起できます)。
司法書士は,多くの不動産売買の決済期日(手付以外の残代金をすべて支払う手続:同時に,銀行への返済,新たな借り入れの実行や,名義を移転させる登記,抵当権の抹消,抵当権の新たな設定などの登記のための書類の取り交わしと登記申請が行われる日。)にあたって,立会いを行い,滞りなく各種登記が行われるよう書類確認のうえ,登記申請を行っており,間違いのない,円滑な不動産取引を実現する大きな役割を担っています。
○土地家屋調査士
原則として土地家屋調査士法に基づく土地家屋調査士試験に合格し,日本土地家屋調査士会連合会の名簿に登録する国家資格です。
業務の中心となるフィールドは,不動産の表示登記について必要な土地・家屋に関する調査・測量を行い,図面を作成し,表示登記申請の代理を行うことです。
不動産登記簿の表示部には,土地の地目(宅地か田畑かなど),地積,所有者などの記載,建物の種類・構造,階数,床面積などの記載がありますが,これらは,土地家屋調査士が土地や建物を測量の上,登記申請を行った結果作成されたものであることが多いです。例えば,分譲マンションの登記簿をみると,はそれぞれの専有部分(各戸)の面積が1つ1つ表示部に記載されていますが,それらは土地家屋調査士の測量によるものです。
法務局で閲覧できる地積測量図,建物図面などの図面も,多くは作成した土地家屋調査士の記名押印がなされています。また,土地の境界には,地面に四角い境界標や,丸い境界鋲が打たれているのを目にしますが,多くは土地家屋調査士の設置によるものです。
さらに,筆界特定の手続の代理など,いわゆる境界紛争などにあたっては,座標や境界標から筆界(土地と土地の境界)をここと示す(再現する)のは土地家屋調査士の業務であり,境界をめぐる問題について重要な役割を果たしています(筆界や所有権界など,境界についての用語・問題点については機会を改めて述べたいと思います)。
不動産鑑定士も含め,これらの不動産関連各資格の業務については,相互に関連性もありますので,ご相談の内容によっては,必要に応じて,ある資格業の方から他の資格業の方への紹介や,共同でのご相談事項へのサポートなども行われることが通常です。