平成31年1月1日時点の公示地価では,大阪府の地価変動率は,住宅地+0.2%(昨年は+0.1%)と上昇率がややアップ,商業地は+6.5%(昨年は+4.9%)とさらに上昇傾向が強まりました。

前回お伝えしたとおり,全国2位の上昇率となった黒門市場内の標準地,大阪中央5-24(黒門市場・千成屋;+44.4%)を筆頭に,全国の商業地の地価上昇率トップ10地点のうち,大阪の標準地が4地点ランクインしました。海外からの観光客の増加による,インバウンド効果もあり,キタ,ミナミの中心街をはじめとして,さらには新大阪駅や江坂駅周辺の地域も30%を超える上昇率となっており,利便性の高い,大阪メトロ御堂筋線周辺の繁華街の地価上昇が目立ちます。

住宅地では,2020年目標の,北大阪急行電鉄の延伸,箕面萱野駅の開業を控えた,箕面市内の標準地・箕面-11(白島2丁目)が+19.3%と上昇率トップとなっています。新駅開業は顕著な例ですが,住宅地については,利便性に優れた駅から徒歩圏内の土地と,それ以外の利便性の低い土地の二極化がより鮮明になってきています。

大阪都心部の地価動向で注目すべき点としては,大阪府内の標準地で,地価トップの地点は長い間キタの梅田地区内の標準地でしたが,平成30年からは,ミナミの心斎橋に位置する標準地:大阪中央5-2が地価トップとなっています(平成31年の価格:1980万円/㎡)。

この大阪中央5-2は,宗右衛門町7-2にある商業ビル「クリサス心斎橋」の敷地が標準地に選ばれています。戎橋(ひっかけ橋)の北東にあるH&Mが入居する商業ビルです。昔はキリンタワーがあった場所というと分かりやすいでしょうか。

これに続く地価2位の標準地は,大阪北5-28(大深町4-20)で,大阪駅北側のグランフロント大阪南館の敷地です(平成31年の価格:1900万円/㎡)。平成29年まではこのグランフロント大阪南館が大阪府内の標準地では地価トップでしたが,昨年から心斎橋にトップの座を明け渡すことになっています。

折しも今月から,星野リゾートが新今宮駅の駅前に開業する大規模ホテルの着工が始まっていますが,大阪ミナミを筆頭に,大阪市内ではインバウンドの効果でホテル用地への需要が高まっており,関西空港などから便利な位置にあるミナミへの土地需要が高まり,地価においてもミナミが復権することとなりました。かつて,ヨドバシカメラ梅田店が開業した頃は,大阪においてもキタへの一極集中,ミナミの地位低下といったことが言われていただけに,隔世の感があります。ミナミ地区に注目が集まりますが,もちろん他の大阪都心部,大阪メトロ御堂筋線沿いを中心に,地価の大幅な上昇が続いています。

【大阪市各区】

大阪市についてみると,商業地の平均変動率は+10.6%と高く,住宅地の平均変動率も+0.8% と上昇しています。

大阪市内各区についてみれば,商業地の平均変動率については,東住吉区以外のすべての区で上昇しています。なかでも,平均+15.1%の上昇となった北区と中央区のほか,福島区,中央区,西区,浪速区,淀川区では平均上昇率が10%を超えています。また,外国人観光客の宿泊で賑わう西成区も+9.9%の上昇となっており,ホテル需要をはじめとするインバウンド効果が顕著に現れた結果と思われます。

住宅地の平均変動率についても,大正区以外のすべての区で上昇しています。特に,+9.5%の西区を筆頭に,北区,福島区,中央区,西区,浪速区などは+4%を超える高い上昇率となっています。

一方,大阪市以外の大阪府内の各市町村については,地価は全体としては上昇基調にあるものの,利便性の高い土地とそうでない土地で,二極化が鮮明となっており,「上昇」の一言ではすまされず,より細かに見てゆくことが必要となっています。

【北大阪地域】

吹田市,豊中市,高槻市などのある北大阪地域では,住宅地の平均変動率は+0.7%,商業地の平均変動率は+5.8%と安定した伸びを示しています。各市町についてみると,平均変動では,商業地の平均変動率は全市町でプラスとなっています。特に,吹田市では,江坂駅周辺の+30%を超える上昇など,平均でも+12.0%となっており,大阪メトロ御堂筋線・北大阪急行線沿いなど,利便性の高い地域での地価上昇が目立ちます。住宅地でも,能勢町,豊能町など交通利便性の低い地域以外は上昇となっています。

【東部大阪地域】

枚方市,守口市,東大阪市,八尾市などのある東部大阪地域については,住宅地の平均変動率は-0.4%,商業地の平均変動率は+0.9%となっており,全体として,住宅地は以前緩やかな下落傾向にあります。各市町についてみると,商業地の平均変動率は全市でプラスとなっている一方,住宅地の平均変動率は枚方市以外はマイナスとなっていることから,利便性の高い地域と低い地域で地価の動向が分かれてきているものと思われます。

【南河内地域】

松原市,藤井寺市,富田林市,河内長野市などのある南河内地域についても,住宅地の平均変動率は-0.7%,商業地の平均変動率は+0.7%となっており,全体として,住宅地は以前緩やかな下落傾向にあります。各市町についてみると,商業地の平均変動率は全市でプラスとなっている一方,住宅地の平均変動率は大阪狭山市以外はマイナスとなっていることから,地価の二極化が生じてきていることが分かります。

【泉州地域】

堺市,和泉市,岸和田市,泉佐野市などがある泉州地域については,住宅地の平均変動率が+0.2%,商業地の平均変動率は+2.9%となっており,全体としては上昇傾向にありますが,各市町の間でのばらつきは大きくなっています。各市町についてみると,商業地の平均変動率は全市町でプラスとなっている一方,住宅地の平均変動率は堺市,高石市,泉佐野市はプラス,それ以外の市町はマイナスで,特に岬町は-4.3%となっていることから,泉州地域でも地価の二極化が顕著になってきています。

大阪府内においても,交通利便性や繁華性の違いにより,地価が大きく上昇している地域と,下落が続く地域が鮮明に分かれてきています。人口減少時代を迎え,利便性の高い土地の価格は上昇し,そうでない土地は下落が続いてゆくものと考えられます。

大阪という,三大都市圏の内部でもそのような傾向が顕著ですので,全国的に見れば,都市部と過疎地域の差はさらに大きくなってゆくものと思われます。

もっとも,2025年の大阪万博やIR誘致など,大阪圏には独特の要因がありますので,鉄道・道路等交通機関の整備による人の流れの変化や,さらなるインバウンド効果の影響など, 都心部や湾岸地域を中心に,関西空港周辺や新大阪周辺も含め,大阪の地価動向からは目が離せない状況が続きます。

地価については,上昇すれば資産価値は高まりますが,一方で固定資産税・都市計画税など,土地を持つことについてのコストも高まりますし,相続税・贈与税にも影響してきますので,一概に地価が上がることはプラスだけとはいえません。売却を考えていない方にとっては,地価の変動はあまり関係のないことかもしれません。

もっとも,土地の資産価値があることは,個人や企業による銀行からの借入に際しての担保評価等,金融の動向や事業活動に関して非常に重要になってきますし,2007年以降の金融危機「リーマン・ショック」も,端的にはサブプライムローンによる不動産に対する貸付金が回収できないことから生じたものですので,国や地域の経済を考えるとき,二極化が進み,複雑な様相となってきている地価の動向については引き続き注視が必要です。

今年の全国の公示地価の詳細については,以下の国土交通省のサイトでご覧になれます。

https://www.land.mlit.go.jp/landPrice/AriaServlet?MOD=2&TYP=0