一戸建てのマイホームを購入しようとするとき,皆さんは方位を気にされるでしょうか?

一般に,日本では南向きの土地が好まれ,南向きの次に,東向きが好まれる傾向があります。

実際に,新しい分譲地などで,まとまった宅地が売りに出されているときなど,やはり南向きや東向きの土地は,西向きや北向きなど,他の方位の土地よりも,やや単価が高く設定されていることが多いです(もちろん土地の方位だけでなく,角地かどうか,道路との高低差がないか,などによっても価格は異なってきますが)。

不動産の鑑定評価においても,戸建ての住宅地などについては,方位によって格差をつけることが一般的です。南向きの土地は,北向きの土地に比べ, 個別格差率で 数%プラス補正がなされることが多いです。

ヨーロッパ各国などでは,日本ほど南向きの土地にこだわらないといわれています。

なぜ日本では南向きの土地がこれほど好まれるのか?

①寒さを凌ぐため,冬によく日が当たる南向きが好まれてきたから(熱い夏には日が高く昇り,意外に南からは長時間屋内に日光が射し込まないため),②南向きの土地の北側に家を建てて,南側を庭にすれば,日の良く当たる庭で藁を干したりすることができるから,③風水の影響で南側に玄関を置くことが良いと考えられてきたから,などいくつかの理由は挙げられていますが,はっきりした決め手はなく,明確な理由は分かりません。

もっとも,南向きの土地が好まれるのは住宅地についてで,店舗や事務所などの集まる商業地では,かえって南向きが避けられることもあります。

野菜や精肉,鮮魚といった生鮮食料品を扱うお店では,日射しが強いと商品がすぐに傷んでしまうため,南向きの店舗は好まれません。また家具店や書店なども,商品が日焼けしてしまうことから,同様です。

現在では大規模なショッピングセンターが多いので,そもそも方角がどうということは問題にならないかもしれませんが,古くからの商店街などでは,あえて南向きを避けるお店も多いといわれています。

また,山林にも特別な要素があります。吉野杉や北山杉など,高級木材が植林されている「林業本場林地」といわれる山林などでは,方角としては,どちら向き斜面の土地に植林がなされるでしょうか?

普通に考えれば,日当たりの良い南側を向いた斜面がよさそうなものですが,実は違います。

良木を育てるには,北向き(北の方に向いて下っていく)斜面で,ある程度標高が高く,霧が生じるような土地がよいとされています。京都の北山杉,奈良の吉野杉,大分の日田杉など,良木の産地はほとんどが北向きの斜面です。

木材に使われる杉や檜を思い浮かべていただくと,枝打ちがされ,高く真っすぐ伸びた幹に,上の方だけ枝葉が付いている姿なのがお分かりになると思います。

日当たりが良すぎて,横から日光が当たり,枝葉が横に伸びてしまうことは木材としては良くありません。ですので,幹の樹皮に直接日光が当たるような土地ではなく,上の方の葉だけが日射しを浴びる土地の方が優れています。また,土についても水分が蒸発しにくい環境の方が優れています。

このように,それがどのような用途に使われる土地であるかによって,土地の方位が持つ意味は大きく異なってきます。不動産の評価に際しては,時として,農業や林業の基礎的な知識が役に立つこともあります。

不動産鑑定士には,やたら雑学に詳しかったり,旅行好きだったりする人が多いのですが,不動産を評価するためには,あらゆることを見聞きして知ることがプラスになるという意識が強いからかもしれません。