建物の区分所有等に関する法律(区分所有法,マンション法)では,建物は専有部分と共用部分に大別されています。
「専有部分」とは,区分所有権の対象となる部分,すなわち,分譲マンションでは,居住するための各室のことです。これは長屋でも同じです。
「共用部分」とは,原則として区分所有者(各室の所有者)全員が共有する部分です。建物全体のエントランス,廊下,バルコニー,柱や壁のコンクリート部分などが典型的な共用部分です。
細かく見れば,マンションでは,原則として,壁やサッシ,玄関ドアで区切られた内側が専有部分となりそれ以外は共用部分となります。つまり,玄関ドアの外側は共用部分だけれども,内側の塗装部分は専有部分になる,といったややこしいことになっています(厳密にどこで線を引くかは考え方も分かれています)。
いずれにせよ,各室は専有部分,それ以外は共用部分であり,共用部分は区分所有者全員の共有となるというのが,区分所有法の考え方です。では,区分所有法が長屋(連棟式建物)にも適用されるとなると,どういうことになるでしょうか?
いわゆる長屋の切り離し(一部取り壊し)の違法性について判断した,東京地方裁判所平成25年8月22日判決(判例時報2217号52頁)は,いわゆる長屋の建物について「本件連棟式建物は,全体が隙間なく接続されており,基礎・土台部分や,屋上,外壁,柱及び境界壁等の躯体部分は,専有部分以外の建物の部分として共用部分に当たる。」と述べています。ということは,長屋の建物の基礎・土台部分や,屋上(屋根),外壁,柱及び境界壁は共用部分として,区分所有者(長屋の住人)全員の共有であるということになります。
つまり,各区分所有者(長屋の住人)は,自分が居住している部分の土地については,単独で所有権を有していることになりますが,その上には,長屋の住人全員が共有する建物の基礎・土台や屋根,柱,壁等が共用部分として載っているということになります。自分の住んでいる家の土台や屋根,柱,壁などは自分ひとりのものではなく,長屋の住人の共有するものなのです。したがって,土地について,それぞれの長屋の住人が所有していたとしても,その上にある建物の所有関係,権利関係は,戸建住宅を所有しているような場合とは全く異なるのです。
となると,長屋の住人は,自分の住んでいる部分の建物を勝手に他の部分から切り離し(取り壊し),新しい建物を自由に建てるということはできないことが分かります。自分の住んでいる部分の屋根や基礎・土台は他の住人との共有物なのですから,自分ひとりの判断で取り壊せるはずがありません。他人の持ち物を勝手に壊すことができないのは当然です。
法律的には,土地が分有(それぞれの住人が所有)している長屋(連棟式建物)について,一部の区分所有者(住人)が,長屋の切り離し,建替えを行うには,区分所有法の適用があることにより,区分所有法62条の建て替え決議(区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数)が必要となってしまいます。共有となっている基礎・土台や屋根,壁,柱などを壊すには,少なくとも住人の5分の4,五軒長屋であれば,自分も含め4人の賛成が必要となります。これは相当厳しい条件です。
○区分所有法
(建替え決議)
第62条
集会においては,区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で,建物を取り壊し,かつ,当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(「建替え決議」)をすることができる。
一般に,長屋の一部切り離し,建替えを行う際,切り離す場合の隣の住人の方の承諾を得ることは行われていると思います。これは,長屋の場合,隣との境界壁や境界部分の柱は共用しているものなので,それに手を加えることについて承諾が要ることは,感覚的に分かるからだと思われます。しかし,本来,基礎・土台や屋根等は,長屋の住人全員の共有物なのですから,長屋の切り離しをしようとすれば,長屋の住人全員に声を掛ける必要があるのです。
もっとも,実際,建築工事の実務においてそのような取扱いをしていない場合も結構あるのではないでしょうか。
上記の東京地裁の裁判例は,最高裁の判例ではありませんので,この裁判例の判断内容が絶対というわけではありませんが,長屋(連棟式建物)に区分所有法が適用されることについては,一般的に妥当と考えられていますので,いざ争われたときのことを想定すれば,やはりこの裁判例を踏まえた慎重な手続を踏んでおくべきではないかと考えられます。
(その3に続きます)