以前,「普通の借家契約を定期借家契約に切り替える際に,借家人やテナントさんにとって不利な条件となることに対する,何らかの金銭の授受や,家賃の見直しなどが行われるのが通常でしょう。」と述べました(「定期借家契約~借家人・テナントにとっての注意点:2019年1月6日」)。
普通の借家契約であれば,大家さんが解約を申し入れても,借家人に合意してもらえない場合,大家さんに正当事由がない限りは,建物の明渡しは認められません(借地借家法28条)。そのため,正当事由を認めてもらう一環,あるいは交渉の材料として,解約申入れに際して,立退料などの授受の約束が行われることが多いです。
普通借家契約を定期借家契約に切り替える場合にも,いわば,普通の借家契約のままであれば,将来もらえたかもしれない立退料を,契約の切り替えによって借家人が放棄することにもなりますので,何らかの金銭の授受や,家賃の見直し(減額)などにより,借家人が納得できる条件を提示するのが通常です。
もし,大家さんから何の条件提示もなく,ただ普通借家契約を定期借家契約に切り替えるという申入れがあった場合には,契約が借家人にとって大幅に不利な契約にバージョンダウンするということを踏まえ,一時金の授受や家賃の減額について,大家さんに申し入れることも考えられます。
借家の場合と同様,借地契約を結んでいる時に,地主さんから,借地から立退きするよう申し入れがある場合も,地主さんに正当事由がない限りは,土地の明渡しは認められません(借地借家法6条)。そのため,立退料などの授受が行われるのが通常です。地主さんから,「代わりの借家をこちらで用意するから,借地から立ち退いてほしい。」といったような申入れがあることも考えられますが,それは借主が持っている借地権を放棄させ,借地契約を,より借主が弱い立場になる借家契約にバージョンダウンさせることを意味しますから,借地権の価値について十分確認されたうえで,地主さんに何らかの一時金の授受を求めることも考えられます。
借地権の価値については,一般には,国税(相続税)路線価に記載されている借地権割合が目安になります。借地権割合が50%であれば,更地価格の半分,50%が借地権の価格の目安になります。
借家権の価値については,一つの考え方として,土地(更地)価格に,国税(相続税)路線価に記載されている借地権割合と,財産評価基準の借家権割合(一律に30%とされています)を掛けた額と,建物価格に借家権割合(30%)を掛けた額の合計が目安となります。
例えば,土地価格が5000万円,建物価格が1000万円,借地権割合50%,借家権割合30%であった場合,
借地権の価値は,土地価格×借地権割合=5000万円×50%=2500万円
借家権の価値は,土地価格×借家権割合×借家権割合+建物価格×借家権割合=5000万円×50%×30%+1000万円×30%=750万円+300万円=1050万円
と計算されます。
これらの価格はあくまでざっくりした数値で,一般的には上限値に近い額と考えられていますが,交渉や協議にあたっての一つの目安にはなると考えられます。
立退きや契約の変更に際して,双方の主張する借地権の価値や借家権の価値に争いがあり,なかなか合意が得られないために,さらに精緻な借地権の経済価値,借家権の経済価値が必要な場合については,不動産鑑定評価基準にそのオフィシャルな評価手法が記載されていますので,不動産鑑定士の鑑定評価によることとなります。