住民票除票150年保存 所有者不明土地で法案

日経新聞電子版 2019/3/15 11:55

政府は15日、住民票の「除票」を長期間保存することを定めた法案を閣議決定した。成立後に政令を改正し、保存期間を現在の5年から150年に延長する。所有者不明土地への対応策の一つ。除票には転居先が記載されており、長期保存すれば土地所有者の現住所が割り出しやすくなる。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42495930V10C19A3000000/

日常生活の中で,市役所や町村役場で住民票を取得する機会は多いと思います。住民票は,引っ越しなどの際,転入届を出すことをきっかけに,住民登録をしている市町村が作製・管理をしていますが,死亡や転出などで,その人がその市町村からいなくなった場合には,住民票は消除され,管理されなくなってしまいます。

ただし,「住民票の除票」(住民票が消除されたことの記録)については,5年間保存することとされています(住民台帳基本法施行令第34条)。つまり,その市町村からいなくなった後も,5年間は,その市町村に住民登録をしていたこと,以前住民登録をしていた住所の証明を取ることができるということになります。

この5年間という期間は最低限の保存期間ですので,実際の市町村の運用によっては,それ以上の期間保存しているところもあります。具体的には,市役所や町村役場の住民課などに,まだ自分の住民票の除票が保存されているかを問い合わせることになります。

なお,住民票とは別に,戸籍については本籍地の市町村が作製・管理していますが,現在の戸籍の制度では,ある人が引っ越しなどで住民登録を写した場合には,その都度,「戸籍の附票」に住所が記録されることになっています。つまり,本籍地に請求して,戸籍の附票を取ってそれを見れば,戸籍に記載されている人の住所の履歴を知ることができます。この戸籍の附票は,戸籍に記載された人が全員死亡したような場合には消除されますが,5年間は保存することとされています(住民台帳基本法施行令第34条)。ただし,戸籍のコンピュータ化などに伴う改製に際し,過去の紙ベースの戸籍の附票は改製後5年間で廃棄されていることも多いです。

【参考】住民基本台帳法施行令

(保存)

第34条 市町村長は、(中略)消除した住民票(世帯を単位とする住民票にあつては、全部を消除したものに限る。)又は(中略)全部を消除した戸籍の附票を、これらを消除した日から5年間保存するものとする。(以下略)

このように,住民票の消除から5年,戸籍の消除から5年の間は,ある人が,過去に住んでいた住所がどこであったかの証明を得ることができますが,その期間を過ぎてしまうと,その人の過去の住所の履歴を証明することは難しいことになります。現在,戸籍の保存期間は150年ですので,本籍地や血縁関係の繋がりを証明することは長期間可能ですが,本籍地とは異なる住所に住民登録をしていたことを証明するのは,一定期間が経過してしまうと難しいのです。

では,過去の住所を証明する必要がある場合とは,どの様な場合があるのでしょうか?

これは,最近問題となっている所有者不明土地問題とも関連するのですが,相続などで被相続人から相続人に,相続登記により土地の名義を変更したいといった際,過去の住所の証明が重要なポイントになってきます。

例えば,登記簿上の名義が,亡くなった父親のままになっている土地の相続登記を行おうとする際,父親の本籍地が神戸市,死亡時の住所(最後の住所)は大阪市,登記簿に所有者として記載されている父親の住所には,昔住んでいた京都市の住所が残っている,といった場合には,どの様な問題があるでしょうか?

被相続人である父親について,①本籍地は神戸市,②死亡時の住所(最後の住所)は大阪市,③相続財産である土地の登記簿上の住所は京都市,というケースです。

通常は,まず,被相続人である父親の最後の住所である大阪市で,本籍地が神戸市と記載された住民票の除票を取ることになりますが,この,最後の住所が大阪市である○○さん(父親の名前)と,登記簿に所有者として記載されている京都市の○○さん(父親の名前)が,同一人物であることの証明が必要となります。すなわち,相続登記をする際には,被相続人である父親が,京都市から、最後の住所である大阪市に引っ越してゆくまでの,住所の履歴を証明する書類が必要になります。

これは,登記簿では,氏名と住所の記載によって,所有者が誰かを特定していることによります。登記簿に所有者として記載されている,京都市を住所としているその人物(京都市の○○さん=父親の名前)と,本籍が神戸市で大阪市が最後の住所であった人物(大阪市の○○さん=父親の名前)が,同姓同名の別人などではなく,いずれも被相続人である父親で,同一人物であることを,住民票の除票や戸籍の附票を提出して証明することが必要になるのです。

ここで,もし,大阪市で取得した住民票の除票に,転入前の住所として登記簿の記載と同じ京都市の住所が記載されていれば,住所の繋がりは明らかになります。また,京都市にまだ住民票の除票が残っていて,転出先として大阪市の最後の住所が記載されている場合や,本籍地の神戸市に戸籍の附票が残っていて,京都市から大阪市までの住所の履歴が記載されている場合には,容易に京都市から大阪市までの住所の繋がりの証明が可能です。

しかし,仮に,最後の住所地である大阪市の住民票の除票に,転入前の住所として堺市の住所が記載されており,さらに既に堺市の住民票の除票は廃棄されていた,というような場合には,住民票の除票による住所の繋がりの証明は困難になります。堺市の前に京都に住んでいた証拠が入手できないからです。
さらに,本籍地の神戸市において,転籍やコンピュータ化などに伴う戸籍の改製などにより,京都市に住んでいたことが記載されていた戸籍の附票がすでに廃棄されてしまっているような場合には,過去の住所の証明はもはや非常に困難となります。

なお,そのような場合でも,例外的に相続登記が可能となるような実務上の取扱いはありますが,住民票の除票や戸籍の附票で証明できる場合に比べ,相当の費用と手間がかかることもあります。

このように,過去の住所の証明が必要になる切実なケースが存在します。

住民票の除票が,戸籍と同様,150年間の保存期間に延長されることは,相続登記などに際しては,非常にプラス面の大きい制度変更であり,実務上,その意義は大きいものと考えます。