民事執行法の改正案などが閣議決定されました。

内閣提出法案(「閣法」といわれます)は閣議決定で,行政の最高機関である内閣としての決定がされた後,内閣から国会に提出されることになっていますので,その,今通常国会への提出の準備が整ったということです。

離婚夫婦 子引き渡しルール明記…閣議決定 同居の親不在でも
読売新聞オンライン 2019年2月19日 15:00

「政府は19日の閣議で、離婚した国内の夫婦間の子供を引き渡す際のルールを明記した民事執行法改正案と、国境をまたいだ夫婦間の子供の引き渡し手続きを見直すハーグ条約実施法改正案を決定した。いずれも子供と同居する親が不在でも引き渡せるようにするもので、子供の心身に配慮しつつ手続きの実効性を高める狙いがある。今国会での成立と来春までの施行を目指す。」

https://www.yomiuri.co.jp/national/20190219-OYT1T50181//


民事執行法の改正については,その必要性が長年説かれてきました。

裁判,訴訟で判決をとるのは「民事訴訟法」に沿って手続が行われるのですが,判決で「○○円を支払え,」,「○○を返還せよ」と書かれていても,相手がそのとおり支払ったり,返してくれるとは限りません。

その際は,「民事執行法」の規定に基づき,「強制執行」が行われ,差押え,強制競売,間接強制(罰金のようなもの),直接強制などによって判決内容を実現してゆくことになります。

もっとも,これまでの民事執行法の規定では,そもそも規定に不十分なところがあったり,相手が財産の隠ぺいを行い,財産のありかが分からないような場合には,判決をとったにもかかわらず,回収ができないといった,泣き寝入りをせざるを得ないような状況も散見されました。

今回,そうした問題の中でも,子の連れ去り事件など社会問題になっていたり,弁護士実務において大きな問題となっていた,執行を免れるための財産隠しの防止策などについて,改正案が国会に提出されることになりました。

まず,子の引渡のルールについては,離婚後,親権を失った親から,親権を持つ親に子を引き渡すルールが整備されるようです。

これまで,民事執行法には,子の引渡を直接定めたルールはなく,動産(不動産以外の一般的な物)の引渡の規定を類推(流用)するような形で,実務的な運用に任されてきました。実際,どのように運用されるかに関し,一律の基準といったものもありませんでした。もっとも,子どもは物ではなく,動産引渡と同じように扱うのは不自然でしたし,裁判例の中には,子の引き渡しについて直接強制で引き離すことは適切でないとするものもありました。

物(動産)であれば,執行官(裁判所に所属し民事執行について専門的に遂行している公務員)が引き渡しを命じたにもかかわらず,相手が引渡を拒むような場合には,壊れない程度に,執行官が引き離して占有を取得するということもできますが,子どもは感情をもった,しかも通常大人よりも繊細な状態にある人間ですから,そのように扱うことには問題があります。

また,これまでの運用では,子と同居する親権者親がその場にいない場合には,子の引渡は行えないということになっていました。これは,子が家に独りでいるところを連れ去ってしまった,といった見方をされることに配慮したものでしょうが,せっかく執行官が訪問しても執行ができずに終わってしまうという問題がありました。

こうした状況を改善するため,今回の改正案では,一歩進んで,子供と同居する親がいなくても、親権者が立ち会えば引き渡しを実行できる規定が盛り込まれました。これには強制執行ができる場合=強制的に子の引渡を行わせることができる場合の条件も,併せて定められています。

ただし、同居の親がその場で子供を抱きしめて離さない場合には、これまでのとおり,子供を無理やり連れ出すことはできないともされています。両親が子の取り合いをして争う姿が,子に悪影響を及ぼすということもありますので,実際,現場でどのような状況判断がなされ,子の引渡が行われるかについては,難しい判断が必要になりそうです。

(その2に続きます)