所有者不明土地について,法務省の法制審議会で,民法と不動産登記法の改正が検討されることになったことは,既にご紹介しました。

そうした法務省の検討と並行する形で,国土交通省は,国土審議会において土地基本法の改正について検討しています。

国交省/土地基本法改正の方向性提示/所有者不明土地問題で対策

日刊建設工業新聞 2019年2月18日1面より

「国土交通省は,所有者不明土地問題の解決を目指し議論してきた土地基本法改正の方向性を固めた。土地の適切な利用・管理を実現するため,基本理念や所有者の責務,地域住民と行政の役割分担などを打ちだした。人口減少社会の進展などを踏まえ,土地利用の現況に適した方向に政策を転換する。」

引用 https://www.decn.co.jp/?p=105586

土地基本法について若干ご説明しますと,「土地の憲法」とも言われ,土地取引や土地利用の在り方を示したもので,国土利用計画法,都市計画法,建築基準法等,他の土地取引・土地利用に関連する法律の基本法として上位に立つものと考えられています。

土地基本法は,平成元年(1989年)12月に制定されましたが,その背景としては,昭和60年代から平成初頭にかけてのバブル経済期における地価高騰は,住宅取得の困難化や不公平感の増大など深刻な社会問題を生みだしていたことがありました。このような状況から,「狭い我が国においては,土地は限られた資源であり,国民共通の生活基盤である。したがって,その利用には適正な負担と公共的制約が伴うものである。」という認識の必要性が提唱され,このような認識を国民共通の認識として確立することを目的として制定されたのが土地基本法でした。

昔のことになりますが,平成3年(1991年)4月から,三上博史さんと田中美佐子さん主演の「それでも家を買いました」というTBSの連続ドラマが放送されていました。その中で「うかうかしてると,そのうち土地なんか買えなくなるんですよ!」と小西博之さんが力説していたシーンはいまだに覚えています。後の経済データから見れば,実はこのドラマが放送される平成3年春頃には,すでにバブル崩壊が始まっていたのですが,そのくらい,当時は地価の暴騰が社会問題となり,騒然とした雰囲気がありました。

この土地基本法は,「土地臨調」ともいわれた「第2次臨時行政改革推進審議会(第2次行革審)」による答申をもとに制定されました。まず審議会が検討し,その答申をもとに法改正を行うというスタイルは今も変わっていません。筆者はこの後の第3次行革審の時代に当時の総務庁(現総務省)に入庁し,間近で行革審の活動を見ることになりましたが,いまだ「土地臨調」といわれた第2次行革審の熱気が残っていたのを覚えています。

土地基本法は,4つの理念,すなわち,①公共の福祉優先(第2条),②適正な利用及び計画に従った利用(第3条),③投機的取引の抑制(第4条),④価値の増加に伴う利益の増加に応じた適切な負担(第5条)を明らかにし,国,地方公共団体,事業者及び国民の責務を定めるとともに,土地に関する基本的施策などを規定しています。

しかし,この理念は,平成初期当時の,暴騰する地価に対応するために規定されたものですので,私利私欲のためでなく公共の福祉が優先しますよ,とか,投機的な土地転がし(転売)はやめましょう,地価が上がった分負担もしてください,といった,地価が上昇し続けるという前提が基礎となっています。三大都市圏など一部の都市部を除いては地価が下落し続けている,現代における土地についての理念としては十分とはいえません。

人口減少時代,常に価格が上昇するという土地神話が崩壊した時代においては,誰もが土地を欲しがるとは限りません。相続などに際し,利用しにくい土地の所有権を放棄したい(土地を捨てたい)といった要望もあるなか,土地を所有するとはどういうことなのか,どういう責任があるのかといったことを踏まえて,民法や不動産登記法の改正に合わせた,新たな時代の土地と国民のかかわり方,土地の有効利用の在り方を示す,土地基本法改正が求められています。