民事執行法改正案の閣議決定について,前回は子の引渡のルールについてお話ししました。
今回の改正案では,執行の実効性を担保するために,裁判所の財産開示手続の罰則の強化や,債務者の預貯金の口座や,勤務先などの情報を金融機関や自治体などに照会し,開示を命じる制度の新設も含まれています。
裁判,訴訟というと,勝訴判決をとることが第一と思われているのが一般的です。実際にもそうなのですが,訴訟を起こす前から,勝訴判決を得たあと,どのように債権を回収するか,現実に支払を受けるかについてしっかり考えておく必要があります。
時々,「判決書など紙切れに過ぎない」といった厳しい言葉が聞かれることがありますが,いくら裁判所が,「被告は原告に対し,○○万円を支払え」といった判決を出しても,その金額が回収できるとは限りません。
裁判で負けた被告(債務者)が,確定した判決にしたがって,任意に支払いに応じてくれれば問題はないのですが,実際にはそのような場合ばかりではないのです。何度督促しても,なかなか支払いに応じない場合や,いわゆる夜逃げなど,行方がわからなくなってしまうことすらあります。
判決に応じた支払いがなされない場合,民事執行法の手続にしたがって,差押えなどにより,債務者の不動産,預貯金,給料,動産(高級な家財道具など)から強制的に支払いを受けることは可能です。
債務者が所有している不動産が分かっていれば,それを差し押さえることは比較的容易ですが,判決が出ても支払いに応じないような債務者は,不動産を持っていないことも多いです。
そのような場合,預貯金や給料などを差し押さえることになりますが,どの金融機関に債務者の預貯金があるか,債務者の勤務先がどこか,などについては,今の制度では,勝訴判決を得た債権者の方で調査する必要があります。裁判所が,それらについて調べてくれるわけではありません。
しかも,預金については,どの銀行や信用金庫のどの支店の口座か,まで特定していなければ,差押えはできないこととされています。そのため,債務者の口座がありそうな金融機関の支店を自力で探すことになりますが,これは容易なことではありません。
弁護士照会という,弁護士会を通じた照会制度を利用すれば,全店照会という,全支店の口座の調査に応じてくれる銀行もありますが,ごく一部の銀行にとどまっています。
したがって,債務者の口座がある支店を見つけるのも,これまでは相当の労力を要していました。
債務者の現在の勤務先が分からない場合も同様で,給料を差し押さえるためには,勤務先を自力で探さなければなりませんが,これも手掛かりがなければ容易ではありません。
このような執行による回収の困難を軽減するため,今回の改正案では,債権者の申出により,裁判所から,預貯金の口座や,勤務先などの情報を金融機関や自治体などに照会し,開示してもらえる制度の創設が盛り込まれることとなりました。
これにより,口座のありそうな金融機関が特定できていれば,その金融機関に口座の有無の照会ができることになり,執行のネックになっていた部分が相当解決されることが見込まれます。
また,これまでも,裁判所の財産開示の手続により,債務者を裁判所に出頭させ,宣誓の上,その時の財産状況を開示させるという制度はありましたが,裁判所に出頭してこなかったり,嘘の説明をしたりすることもあったことから,今回,出頭しなかったり,嘘の説明をした場合の罰則を,現行の「30万円以下の過料」から「6月以下の懲役」などに引き上げることも改正案に盛り込まれています。
執行制度が機能していなければ,時間とお金をかけて判決をとってもムダ,といった無力感にさいなまれることにもなりかねませんから,今後さらに執行制度の充実が望まれます。