【パワハラを禁止する特別の法的規制~今通常国会に法案提出予定】

 ハラスメントのうち,セクシャル・ハラスメント(性的嫌がらせ,いわゆる「セクハラ」)や,マタニティ・ハラスメント(介護・育児休業などに対する嫌がらせ,いわゆる「マタハラ」)については, 男女雇用機会均等法や,育児・介護休業法などで,これを防止することが,会社などの雇用主に義務付けられています。

一方,パワハラについては,これまで,業務上の指導と明確に区別することが難しいことなどを理由に,これまで,パワハラを直接規制する特別な法律は制定されておらず,民法,刑法,労働契約法等の,一般的な法律を根拠に違法性が判断されてきました。

この状況を改め,今の通常国会で,パワハラについて特別の法律を法制化しようとしているのが,現在の動向です(後掲の日経新聞電子版の記事もご参照ください)。

ただし,パワハラに関する特別の法律ができても,努力義務にとどまる可能性も高く,どこまでの防止義務が置かれるか,違反したときの罰則が置かれるか否かなどについては,いまだはっきりしていません。したがって,パワハラについて事後的に責任追及をする場合には,従前のとおり,民法,刑法の規定によることとなる可能性も高いと予想されます。

いずれにせよ,パワハラに対する法規制が,今後厳しくなることはあっても,緩くなることはないと考えられます。

「ハラスメント」という言葉が最初に世の中に広まったのは,平成元年頃のことでした。その後の30年間,平成の時代をかけて,「ハラスメント」の防止が社会の喫緊の課題となってきました。

企業倫理やコンプライアンスの強化,国際的な標準の導入,人権意識の高まりなどが「ハラスメント」防止が社会問題となってきた主な要因でしょう。

しかし一方で平成は「失われた30年」という言葉もあるように,経済成長が停滞し,低成長の常態化,労働不安の時代でもありました。このことが,ハラスメント問題の深刻化の大きな背景になったことは間違いありません。

昭和の時代であれば,「つらい仕事でもこなせば将来は給料がアップしてゆく。」,「雇用は保障されているし,勤続年数が多くなれば待遇もよくなる。」といった右肩上がりの社会的気運により,多少の問題があっても,組織の運営のためには個々のメンバーは我慢すべきであると,不満に蓋がされる傾向にありました。

しかし,長引く経済停滞,雇用環境の変化により,それまでは社会問題化されていなかった問題点が,一気に噴出してきました。また,経営者・管理職の側も,厳しくなる国際競争,経営環境の中で,業績追求,ノルマ達成などのストレスがますます高まってきています。

パワハラの法制化を踏まえ,昔は許容されていたことが,今日の社会常識の下で許されなくなっている,ということを組織のメンバー全員が理解し,パワハラ防止についての共通認識を持つことが,平成の次の時代のスタンダードとして求められています。

パワハラ防止、企業の義務に 厚労省が法整備へ
日本経済新聞電子版より2018/11/19 19:17
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO37940190Z11C18A1EE8000/

最後になりますが,これまで,明石市長の暴言を理由とする辞職のニュースを機に,パワハラについて述べてきたところ,以下の記事のように,明石市長の暴言の背景やパワハラ場面の録音に関する問題点も指摘されています。

ダイヤモンドオンライン 2019.2.7
前明石市長の暴言“盗聴”で浮き彫り、役所の「敵を引きずり降ろす」文化
窪田順生:ノンフィクションライター

https://diamond.jp/articles/-/193276

いずれにせよ,優れた福祉・子育て政策を進めてきた市長が,任期満了を間近にしながら,暴言で辞職するのは市民にとっても戸惑いと混乱を招くことになりました。いくら腹に据えかねる事情があったにせよ,やはりパワハラに該当する発言は不適切であり,責任は免れません。これまでの実績・名声が不適切な発言で失墜してしまわないよう,パワハラ防止,感情管理には常々十分な注意が必要だと痛感する出来事でした。