【「パワハラ」による被害・悪影響】
パワハラが横行する組織では,次に述べるような,さまざまな被害・悪影響が生じます。それは個人を傷つけてしまうだけではなく,組織のモチベーション低下,社会的悪評(いわゆる「ブラック企業」と名指しされるなど)によるブランド毀損,新しく良い人材を獲得することの困難など,組織の存続に関わるマイナス効果を生じさせます。
組織の各メンバーにとって,パワハラ被害は他人事ではありません。次は自分がパワハラの標的になるかもしれませんし,パワハラの横行によって,所属する組織自体が崩壊してしまうおそれもあります。
1 構成員の身体・精神の不全
傷害を受けたり,メンタル不全の発症等
2 職場環境の悪化
健全な職場環境が破壊され,「働きづらい職場」となる。その結果,メンバーが労働に集中できず,成果・業績が生まれにくくなる。
さらには,いわゆる組織の意思疎通・情報流通も悪くなり,組織全体としての生産性の低下を招く。
3 人材流出・人材育成の阻害
有為な人材が次々に辞め,他の組織へと流出してゆく。組織を担う人材の獲得・育成が困難となり,組織の発展が阻害される。
4 対外的な悪評・組織のイメージ低下
「あそこはブラックだ。」といった噂が広まり,組織の評判を下落させ,多大なマイナスの宣伝効果が発生する。ブランドの失墜を招くほか,訴訟リスク,不買運動などのリスクも生じる。
組織全体の社会的イメージが低下し,組織のメンバーの士気も低下する。
【ハラスメントと法的責任】
パワハラについては,今通常国会での法制化が予定されていますが,現行法上,パワハラに対して,どのような法的責任があるのでしょうか。
1 パワハラ加害者の責任
パワハラを行った個人の責任としては,民事責任と刑事責任が問われます。
①民事責任
民事の問題としては,不法行為責任(民法上の損害賠償責任)として,暴力,傷害,人格権侵害などを理由に,損害賠償請求を受ける可能性があります。
また,会社など所属する組織からは,就業規則違反の責任を問われる可能性があります。
②刑事責任(暴行罪,傷害罪,名誉毀損罪,侮辱罪,強要罪,その他)
刑事の問題としては,殴る蹴るなどの暴行や,暴言,悪口や,無理な仕事の押し付けなどについて,犯罪に該当する可能性があります。
なお,殴る蹴るなどの暴行を加えていなくても,「傷害罪」は成立し得ることには注意が必要です。例えば,いたずら電話,無言電話を執拗に繰り返して,被害者が不眠症やうつに罹患した場合,傷害罪が成立し得るとした判例があります。暴言の繰り返しなどにより,パワハラの被害者がメンタルに問題を生じた場合でも,加害者には傷害罪が成立する可能性があります。
2 使用者(会社等の組織)の責任
会社等の組織の責任としては,民事責任として,不法行為責任(使用者責任)や債務不履行責任(安全配慮義務違反など)を問われる可能性があります。
不法行為責任(使用者責任)については,従業員が職務に関しパワハラの加害行為を行ってしまった場合,使用者として,会社等の組織は加害者と連帯責任を負い,被害者に損害を賠償しなければならないことになります。
また,債務不履行責任(安全配慮義務違反など)については,被害者となった従業員との雇用契約上,会社等の組織は,被害者である従業員が,安全に業務に従事できるよう配慮する義務があったのに,それを怠った(パワハラを防止しなかった)ことにより,契約違反として,被害者に損害を賠償することになります。
その他,労働基準法上の責任及び以下のような労働契約法上の責任も問題になり得ます。
(参考)労働契約法
(労働者の安全への配慮)
第5条 使用者は,労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をするものとする。
(その5に続きます)