前回は,離婚時の財産分与で不動産を渡すと譲渡所得が課税されるケースがあるということをお話ししました。

しかし,実際にお金が入ってきたわけでもないのに,まさか財産分与した不動産について譲渡したといわれ税金を課されるとは・・・という状況にある元夫が,あまりにも可哀想ということで,最高裁が夫を救済する判決を出したことがありました。

すなわち,最高裁平成元年9月14日判決(判例タイムズ718号75頁)は,

「協議離婚に伴い夫が自己の不動産全部を妻に譲渡する旨の財産分与契約をし,後日夫に2億円余の譲渡所得税が課されることが判明した場合において,右契約の当時,妻のみに課税されるものと誤解した夫が心配してこれを気遣う発言をし,妻も自己に課税されるものと理解していたなど判示の事実関係の下においては,他に特段の事情がない限り,夫の右課税負担の錯誤に係る動機は,妻に黙示的に表示されて意思表示の内容をなしたものというべきである。本件については,要素の錯誤の成否,上告人の重大な過失の有無について更に審理を尽くさせる必要があるから,本件を原審に差し戻す。」と述べました。

差戻しされた東京高裁は,平成3年3月14日判決(平成1年(ネ)第3217号)で,協議離婚に伴う財産分与契約で分与者側が約2億円に上る所得税が課されることはないと信じたことに要素の錯誤がありまた重過失はなかったとして分与契約を無効とする,

と判示し,元夫を救済しました。

つまり,裁判所は,元夫が2億円もの譲渡所得税が課せられることなどないと信じ込んで,誤解をしていたことから,不動産を現物で渡すこととした,財産分与の契約は,錯誤無効(重大な勘違いなので契約は無効と認める)になるとして,元妻との財産分与のやり直しを認めてあげたのです。

もっとも,この判例があるから,いつでも財産分与のやり直しが許されるのだ,ということにはならないでしょう。

平成元年当時は,財産分与の支払のために不動産を譲渡した場合に譲渡所得税が課されることが常識であったとまではいえませんでしたが,上記の救済判例が有名になった今の時点では,錯誤(勘違い)だから無効という主張はなかなか通らないのではないかと思われます。

離婚の財産分与を,現金ではなく,不動産などの現物で渡すことについてはくれぐれも注意が必要です。

離婚に限らず,人が活動したり,財産を動かす場合には,私法(民法など)の世界だけでなく,必ずと言っていいほど公法(税法)の世界も付いてきます。

民法と税法は別の法律ではありますが,密接に関連していますので,離婚や相続,贈与などに際して,税金の面はどうなるのか?ということも,十分にチェックされることをお勧めします。