夫婦が離婚する際,離婚の条件として,夫または妻が所有するマンション等の不動産の所有権を,相手に渡すことがあります。夫または妻の名義の不動産について「財産分与」を原因として相手に譲渡する場合です。
財産分与とは,夫婦が離婚したとき、相手方の請求に基づいて一方の人が相手方に財産を渡すことです。具体的には,夫婦が婚姻期間中に築き上げた,夫婦共同財産を「清算」すること(例えば結婚生活中に貯めた預貯金が1000万円あれば,離婚の際500万円ずつ分けるなど)です。通常は現金で分与することが原則で,現金で渡した場合には,特に税金はかかりません。
ところが,現金ではなくマンションや一戸建て等の不動産の現物を渡した場合,実際に不動産を売っていなくても,原則として譲渡所得税がかかることになります。手元に現金が入ってくるわけでもないのに,なぜそんなことになるのでしょうか。
譲渡所得税とは,例えば2000万円で買ったマンションが,現在4000万円に値上がりしていたとすると,値上がり分の2000万円について,所得があるとして,譲渡所得税という税金を払うことになるということです。つまり,キャピタル・ゲイン(値上がり益)について,資産を手放すタイミングで課税するというのが譲渡所得税の基本です。
ですので,譲渡所得の課税については,基本的に,実際に手元に現金が入ってきたか否かは問題ではありません。値上がりしている財産を手放したか否かが問題となります。
例えば,現物でマンションを相手に分与することで,離婚も済んだから一安心,と思ったら大間違いで,実際にマンションを売っておらず,現金が入ってきていなくても,あとになって,税務署から多額の税金を払えという通知が来るのです。
最高裁は,昭和50年5月27日判決(民集29巻5号641頁)で,「財産分与に関し右当事者の協議等が行われてその内容が具体的に確定され,これに従い金銭の支払い,不動産の譲渡等の分与が完了すれば,右財産分与の義務は消滅するが,この分与義務の消滅は,それ自体一つの経済的利益ということができる。したがつて,財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合,分与者は,これによって,分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきであり,財産分与としての資産の譲渡は,所得税法第33条第1項の譲渡所得にあたる。」と述べています。
難しそうに見えますが,結局のところ,夫は,離婚する妻に対して金銭などを支払う財産分与の義務があったのに,それが,不動産を渡すことでチャラになった=経済的利益があるのだから,夫はその分の譲渡所得がある,と言っています。
これらの判例を受けて,国税庁でも通達が整備されています(国税庁HP)。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3114.htm
所得税基本通達33-1の4
民法第768条《財産分与》の規定による財産の分与として資産の移転があった場合には、その分与をした者は、その分与をした時においてその時の価額により当該資産を譲渡したこととなる。
すなわち,財産分与が土地や建物などで行われたときは、分与した人に譲渡所得の課税が行われることになります。
この場合、分与した時の土地や建物などの時価が譲渡所得の収入金額となります。
不動産が取得時よりも値上がりしていなければ,譲渡所得税の心配はありませんが,値上がりしていそうな場合は,不動産を渡したからすべて清算完了,というわけにはいきません。後から思わぬ税金が来るので要注意です。
次回は,財産分与で多額の譲渡所得税の通知が来た可哀想な夫が救済された判例について述べます。
(その2に続きます)