前回,路線価のない地域(倍率地域)では,評価倍率表に記載された倍率を,土地の固定資産税評価額に掛けて,土地の相続税評価とするということになっていること,宅地については,倍率表に「1.1」と書かれていることが多いことを述べました。

では,宅地以外の土地,田畑等の農地や山林はどのような倍率になっているのでしょうか。やはり,相続税評価は,固定資産税評価の1.1倍になることが多いのでしょうか。

実は,宅地以外,田畑や山林等には,相続税路線価が時価の8割,固定資産税評価額が時価の7割の水準といった目安は全く当てはまりません。ですので,倍率表記載の倍率についても。「1.1」とはかけ離れた倍率が記載されています。

田畑や山林等の固定資産税評価額は,政策的な理由から,時価や相続税評価額に比べて,相当低額に抑えられており,これにより,固定資産税の課税額も低くなっています。これは,農業や林業は,通常,広大な田畑,山林を所有して営まれていることから,田畑や山林に対して,広大な面積に応じた,多額の固定資産税を毎年課税してしまうと,営農や営林を続けてゆくことが困難になるおそれがあるからです。

一方,相続税評価については,毎年課税されるものではなく,固定資産税とは性質が異なりますので,固定資産税と同様の政策的配慮はありません。このため,田畑,山林等については,相続税評価額と固定資産税評価額の間には大きな乖離,評価額の違いがあり,固定資産税評価額から相続税評価額を求めるための評価倍率は,非常に大きくなっています。

具体的には,田畑,山林等の評価倍率は,10~50倍に設定されていることが多いと思われます。10倍ということは,固定資産評価額は相続税評価額の10分の1,すなわち10%に抑えられていること,50倍であれば,固定資産評価額は相続税評価額の50分の1,すなわち2%程度に抑えられていることを意味しています。

したがって,田畑,山林等の売買にあたって,固定資産税評価額を目安に,売買価格を決めたりすることは,時価からすれば,相当低い価格で取引することを意味することになります。

もっとも,田畑,山林等は,農地法等による規制,取引事例の把握が困難,取引も親族間取引など特別な事情が絡むが多いことなどから,取引の相場,時価といったものが把握しにくいのが実情です。それでも,固定資産税評価額は政策的に相当低額に設定されているということを考慮されたうえで,売買価格を検討されることが適切と思われます。