長屋には,分譲マンションと同じ,建物の区分所有等に関する法律(区分所有法,マンション法)が適用され,長屋の建物については,基礎・土台部分や,屋上,外壁,柱及び境界壁等が共用部分に当たるというのが,東京地方裁判所平成25年8月22日判決(判例時報2217号52頁)の内容でした。すなわち,長屋建物の基礎・土台部分や,屋根,外壁,柱,境界壁などは,長屋の住人全員の共有ということになるのです。
しかし,土地を長屋の住人それぞれがばらばらに所有(分有)しているのに,その上にある基礎・土台や屋根などは,長屋の住人全員が共有している,つまり他人の共有する物が自分の土地の上に載っているということになるのは,どうもしっくりこないと感じる方もいらっしゃると思います。その感覚は当然です。自分の土地の上に,自分がはっきり認めたわけでもないのに他人の物(共有物)がある,これをどう説明するのでしょうか?他人の物は,自分の土地を不法占拠していることにはならないのでしょうか?
東京地方裁判所平成25年8月22日判決は,「購入者の希望により、各専有部分の所在土地ごとに分筆された経過に照らすと、Aは各区分所有者が取得する各土地に他の区分所有者のための占有権原を設定し、各区分所有者は、Aから分譲された分筆後の土地の所有権と共に、他の区分所有者が取得する各土地の占有権原を承継したと認めるのが相当であり、その占有権原の性質は、Aが各区分所有者に地上権を設定した証拠はないことから、賃借権と解される。」と述べています。
なにやら難しい理屈が述べられているようですが,結局,土地が長屋の住人の分有(ばらばらの所有)になった経緯をみれば,長屋の住人それぞれは,他の住人の土地の上に自分の共有物(屋根や基礎・土台)が載ることについて正当な権利を持っており,それは賃借権であると言っています。
つまり,長屋の住人全員が共有する屋根や基礎・土台が,各住人の所有する土地に載っているのは,賃借権に基づくものだから不法占拠ではない,賃借権があるから大丈夫ですよということです。
しかし,賃借権があるというなら,賃料(地代)は発生しないのでしょうか?地代の支払いはなくてもいいのでしょうか?これについて,上記の東京地裁の判決は,長屋の各住人が,それぞれほぼ均等に負担を負っている(それぞれの住人の土地の上にほぼ等しく共有の基礎・土台や屋根が載っている)ことから,結局はお互い様として,賃料は行って来いで相殺され,長屋の住人の間で互いに賃料をやり取りすることは不要になると考えているようです。
頭の体操のような内容ですが,長屋に区分所有法が適用されるとした場合の,複雑な権利関係を何とか説明しようとすれば,負担は「お互い様」として,このような理屈になるほかないと思われます。
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