東京地方裁判所平成25年8月22日判決は。連棟式区分所有建物(いわゆる長屋)について,長屋建物の一部を取壊して,別途独立した建物を新築した所有者に対して,新築建物の収去と損害賠償を命じました。
つまり,長屋の一部を取壊した後の土地に,新しく建てた建物を取り壊しなさい,さらに,不法な取壊しをしたことについての損害を賠償しなさい,という,極めて厳しい判決が出されました。
なぜこのような厳しい判決となったのか,長屋の切り離しにはどのような手続をとるべきだったのか?
長屋の切り離しに際し,注意しておくべき点,同意や約束をしておくべき事柄について,以下見てゆきます。
○長屋の切り離しに必要な手続~何の同意を得ておかないと危ないのか?
長屋の一部を切り離すには,区分所有法上の共用部分,すなわち長屋の住人全員の共有部分である基礎・土台,屋根,境界壁等を取り壊すことになります。
この共用部分の取壊しについては,以下のように区分所有法に規定があり,長屋の全住人の4分の3以上の合意と,切り離す部分の隣にいる住人の合意が必要となります。
○区分所有法
(共用部分の変更)
第17条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は,区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし,この区分所有者の定数は,規約でその過半数まで減ずることができる。
2 前項の場合において,共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは,その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。
長屋の切り離しによって,土台・基礎,屋根,壁といった,長屋建物の共用部分を取り壊すことは,法17条1項の「共用部分の変更」に当たりますから,少なくとも長屋の全住人(所有者)の4分の3以上の合意が必要になります。
また,切り離しによって,切り離し部分に接する境界壁は,これまで建物内部の間仕切りの壁だったものが突然外部に露出し,外気や風雨にさらされる外壁となってしまうことになりますから,切り離し部分の隣にいる住人の専有部分(屋内)について,雨水等の侵入,保温・断熱等について大きな影響が考えられます。したがって,法17条2項の「専有部分の使用に特別の影響を及ぼす」ことに当たりますから,切り離し部分の隣の住人の承諾も必須となります。
さらに,長屋の切り離し後,更地になった土地に新しい建物を建築するには,区分所有法上,建替え決議が必要となります(区分所有法62条1項)。これは,区分所有者及び議決権の5分の4以上の賛成,すなわち,少なくとも住人の5分の4,五軒長屋であれば,自分も含め4人の賛成が必要となります。
なお,長屋の各住人(各所有者)に,切り離しの合意や承諾をする義務はありません。合意をするかどうかは各住人の判断ですので,合意を得るためには,慎重に交渉を行い,他の住人の理解を得ることが必要になります。
これらの,区分所有法上必要とされる決議や承諾を得ることなく,見切り発車で切り離し工事を行ってしまえば,工事によって共用部分が取り壊されてしまうことなどから,「建物の保存に有害な行為その他……区分所有者の共同の利益に反する行為」(区分所有法6条1項)にあたり得ます。
○区分所有法
(区分所有者の権利義務等)
第6条 区分所有者は,建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
そして,「区分所有者の共同の利益に反する行為」が行われた場合には,長屋の他の住人(区分所有者)はそのような行為の停止や行為の結果の除去を求めることができます(区分所有法57条)。したがって,長屋の切り離し工事に対してもその差止めや結果の除去を求めることができることになります。
○区分所有法
(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第57条 区分所有者が第六条第一項に規定する行為(=区分所有者の共同の利益に反する行為)をした場合又はその行為をするおそれがある場合には,他の区分所有者の全員又は管理組合法人は,区分所有者の共同の利益のため,その行為を停止し,その行為の結果を除去し,又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
このような理由によって,東京地方裁判所平成25年8月22日判決では,長屋を切り離して新しく建物を建てた所有者に対して,結果の除去,すなわち新しく建てた建物の取り壊しまで命じるという,厳しい判決が出されることとなったのです。
(その5に続きます)