例えば,国際結婚をしていて,日本と外国で別居しているような場合,もし外国で,結婚相手の夫や妻が裁判所に離婚訴訟を起こした場合,どうなるのでしょうか?

外国の法律と日本の法律の条文には,同じような内容が含まれていることもありますが,基本的に法律はそれぞれの国が別々に決めているものですので,当然その内容が違ってきます。また,裁判の制度も異なります。

国際的な法律や裁判制度の違いがどのように調整されるのかは,いわゆる「国際私法」という法律の分野の問題になりますが,今日はこのような場合について考えてみます。

外国で離婚訴訟が提起された場合,通常は日本の大使館を通じて,被告となる本人(配偶者)に訴状等の,訴訟が起こされたことを知らせる書類が送達されるはずです。そのような送達がない場合,公示送達など,相手が通知を受け取らなくても訴訟を進められる,特別な手続きが取られている可能性があります。

外国の裁判所から訴状を受け取ったら,その裁判所に対して,自分の反論や主張を書いた書面を提出することになります。その場合,通常の訴訟の手続が進み,判決に至ることになります。

また,本人不在のままでも,公示送達等の要件を満たして,外国の裁判所で,適法な訴訟であるとして裁判の手続が進めば,外国では本人不在のまま離婚を認める判決がなされる可能性はあります。

外国の裁判所で離婚を認める判決が出た場合,その判決が出た外国では,判決に基づいて,役所で離婚届が受理されてしまうことになり得ます。

もっとも,外国の裁判所の判決が,日本国内でも有効か(外国の裁判所の判決に基づいて,日本の役所でも離婚届が受理されるか)は別の検討が必要です。

ここからは,離婚判決に限ったことではなく,外国の裁判所の判決が,日本国内でどのように扱われるか,という話になります。

なお,日本国内で,離婚などの家事事件の法律関係について定めているのは,「人事訴訟法」という法律(民事訴訟法の特則とされています)なのですが,この法律は昨年改正され(平成30年4月18日成立),今年(平成31年)の4月1日から施行されることになっています。

改正後の人事訴訟法79条の2では,外国の裁判所の家事事件についての確定した裁判の効力について,民事訴訟法118条の規定を準用(そのまま使う)と明記されました(従来は明文がなく,解釈上民事訴訟法を準用することとされていました)。

○人事訴訟法

第79条の2 外国裁判所の家事事件についての確定した裁判(これに準ずる公的機関の判断を含む。)については、その性質に反しない限り、民事訴訟法第118条の規定を準用する。

では,民事訴訟法118条の規定はどのようになっているでしょうか。

民事訴訟法118条各号によれば,外国裁判所の確定判決であることに加え,

①法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること,

②敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと,

③判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと,

④相互の保証があること,

の4つすべての要件にあてはまる場合,外国の判決が日本でも承認され有効となります。

①は,その外国の裁判所が裁判できる事件なのか,すなわち,その外国の裁判所に裁判権があるのかということです。

原則的に,訴訟は被告の居住している日本の裁判所が裁判権を有する(裁判できる)はずなのに,例外的に外国の裁判所が裁判できるような場合なのか,という問題です。

最高裁は,「我が国の国際民事訴訟法の原則から見て、当該外国裁判所の属する国がその事件につき国際裁判管轄を有すると積極的に認められることをいうものと解される。」と述べており,その外国の裁判所が管轄権を有するかどうかについては,その外国の規定ではなく,あくまで日本の国際裁判管轄規定に照らして判断することされています。

なお,離婚訴訟についての国際裁判管轄(日本の裁判所に裁判権があるか)については,従来は解釈に委ねられ,明確でないところがありましたが,上記の人事訴訟法改正(平成30年4月18日成立,平成31年4月1日施行)によって,改正後3条の2各号で明文化されました。

日本経済新聞電子版 2018/4/18 9:58 (2018/4/18 12:16更新)

国際離婚訴訟の管轄明文化 手続きの迅速化期待

国際結婚した夫婦が,どのような場合に離婚訴訟を日本の裁判所に起こせるのかを明文化した改正人事訴訟法などが18日,参院本会議で全会一致で可決,成立した。これまで規定がなく,裁判の管轄権が日本の裁判所にあるかどうかを判断するだけで数年かかることもあったが,法改正で手続きの迅速化が期待される。近く公布し,公布から1年半以内に施行する。

人事訴訟法は離婚訴訟手続きの特例などを定めたもので,改正法は証拠や関係者の日本との関連性や,手続きに巻き込まれる被告の負担を考慮。(1)被告の住所が国内にある(2)夫婦ともに日本国籍を持つ(3)夫婦最後の共通の住所と原告の住所が国内にある――といった時は,日本の裁判所に訴えを起こせるとした。

例えば,外国籍で外国に住む夫が,日本国籍で日本に住む妻に離婚を求めるケースや,別居直前まで日本で同居し,日本国籍で日本に住む妻が,外国籍で外国に移った夫に離婚を求めるケースが該当する。

ただ(3)のケースでも,別居から長期間たって日本に残る証拠がほとんどない時や,外国籍の被告が別居して外国に移った後は日本を訪れたことがないなど,特別の事情がある場合に裁判所は訴えを却下できる。(以上引用)

民事訴訟法については,平成24年4月1日から施行された改正法により,既に国際裁判管轄の規定(第3条の2~12)が設けられています。

次回は②以降の要件についてみてゆきます。

(その2に続きます)