前回は,所有者不明の土地が増えている問題を解消するため,法務省が,民法と不動産登記法を見直すと発表したことについてご紹介しました。

所有者不明土地については,大きな社会問題になってきており,以下のとおり,応急措置として,昨年,特別措置法が施行されています。

所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法について

更新日:2018年11月16日

法務局HPより

https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000022.html

 平成30年11月15日,法務省及び国土交通省が所管する「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」の一部が施行され,法務省関連の制度が施行されました。

 この特別措置法では,法務省関連の制度として,登記官が,所有権の登記名義人の死亡後長期間にわたり相続登記がされていない土地について,亡くなった方の法定相続人等を探索した上で,職権で,長期間相続登記未了である旨等を登記に付記し,法定相続人等に登記手続を直接促すなどの不動産登記法の特例が設けられました。

 また,地方公共団体の長等に財産管理人の選任申立権を付与する民法の特例も設けられました。
(以上法務局HPより引用)

この特別法では,法務局(登記所)で登記を専門的に担当する役職である登記官が,所有者不明土地の登記の是正を促せるようにしたり,市町村長等が,所有者不明土地を管理できる財産管理人の選任を申立てたりできるようにするための権限を与えることとされました。これは対症療法的に,役所に権限を与えることを定めた立法でした。

それに対し,今回検討されている民法・不動産登記法の改正は,登記簿を見ても誰が現在の所有者か分からないといった,所有者不明土地の発生を根本的に減らすため,相続に際して登記名義の変更を義務化しようとするものになっています。

では,相続によって,所有者不明土地が増えるのはどういう理由によるのでしょうか?

【所有者不明土地が生じる理由】

ある方がお亡くなりになった場合,亡くなった方(被相続人)の持っていた,現金,預貯金,株式などの有価証券,不動産(土地・建物),動産(家財道具など)の財産,あるいはその方の負っていた債務(借金など)は,相続放棄をしない限り,原則として配偶者(夫・妻),子供などの相続人に相続されることになります。

どの財産をどれだけ相続するかは,亡くなられた方(被相続人)の遺言や,相続人の間での遺産分けの話し合い(遺産分割協議)で決められることになります。遺言がなく,遺産分けの話し合いもなされない場合には,原則として,民法で決められた法定相続分で相続されたものと扱われます。

相続が起こったとき,登記名義の変更が放置され,その結果,所有者不明土地が発生してしまう原因としては,主に以下の3つのケースが挙げられます。

1 遺産分割協議がなされない場合

1つめは,相続人間で遺産分けの話し合い(遺産分割協議)がなされず,亡くなった方の所有していた土地を,誰が相続するかはっきりしないまま放置されてしまう場合です。

現在は,民法上,遺産分割協議はいつまでにしなければならない,という期限がありません。

相続税の申告期限は,被相続人の死亡を知った日から10か月以内と決まっていることから,多額の相続財産があって,相続税を申告しなければならないような場合には,それまでに遺産分割協議を済ませようという話になりやすいですが,相続税の申告が不要な場合(相続財産の額が基礎控除額:「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えないような場合)には,あえて面倒なことをしたくないということで,遺産分割協議がずっと放置されている場合も多いと思われます。

もちろん,実際には,亡くなった方の妻や長男がその土地に住んでいたりはするのでしょうが,はっきりした遺産分割協議がなされず,登記簿に記載された名義を,亡くなった方の名義のままにしている例も多くみられます。

2 一部の土地が遺産分割協議の対象から漏れていた場合

2つ目は,遺産分けの話し合い(遺産分割協議)がなされていたにもかかわらず,被相続人の所有していた土地が,遺産分けの対象から漏れてしまっていた場合です。

典型的には,亡くなった方の自宅の土地等については遺産分けをどうするか決めたものの,他に所有している土地があったことを相続人の誰も気づかず,その土地は遺産分けがなされないまま放置されてしまうといったケースです。

例えば,被相続人の実家(出身地)に,先祖代々所有する田畑や山林があったが,妻や子供はそのことを知らされていなかったような場合や,自宅の土地の近くに私道や水路になっている土地を所有または共有していたが,それを誰も認識していなかった場合などです。

このような場合,亡くなった方の所有していた土地が。遺産分けの対象から漏れてしまっていますので,当然登記簿記載の名義もそのまま放置されてしまうことになります。

3 相続登記を怠っていた場合

3つ目は,遺産分けの話し合い(遺産分割協議)がなされ,相続財産の土地を取得する人も決まっていたにもかかわらず,登記名義の変更が放置されている場合です。

登記名義の変更には,登録免許税のほか,司法書士さんなどに依頼する場合には手数料も要しますので,登記の手続が放置されていることも,ままあると思われます(相続の場合には,現在,税額は固定資産税評価額の0.4%と, 売買など他の登記原因に比べ低額に抑えられてはいます)。

(その3に続きます)