【登記が放置されていた場合,後から相続登記をするのは本当に大変】

前回,相続の際,登記名義が放置されてしまうケースについて述べました。

登記が放置されていた場合,亡くなった方の名義がずっと登記簿(全部事項証明書)に残り続けることになります。

相続人などが,そのままその土地に住み続けている分には,さほど問題が生じないかもしれませんが,いよいよその土地が不要となり誰かに売却しようとする場合,あるいは,国や都道府県,市長村などから,道路用地や公園用地にするため買収・収用したいという話があった場合には,困ったことになります。

土地を売買する場合には,その土地の現在の所有者の方と契約し,購入し代金を支払うわけですが,当然,登記簿に名前が載っている亡くなられた方は契約相手にはなれません。また,亡くなった方に対して代金を支払うわけにもいきません。

そこで,売買の前に,売買する土地について,現在の所有者の方の名義へと,登記を変更してもらうことが必要になります。しかし,現在の所有者が誰であるのか,法律的に正確に把握することは,そう簡単ではありません。

登記名義が残っている,亡くなられた方(被相続人)から,誰がその土地を相続で取得するかについて,過去に遺産分割協議がなされていれば,その時作成された遺産分割協議書と,協議書に押印されている方の印鑑証明書を一緒に法務局に提出し,遺産分割でその土地を取得された方の名義へと変更するよう,相続登記を申請することができます。

しかし,長年登記名義が放置されている場合には,亡くなった方の財産について,遺産分割協議を行っていない場合も多く,その際はかなり難しい状況になります。

登記名義を亡くなった方から変更するためには,その土地を誰が相続で取得するかについて,今,新たに遺産分割協議をするか,あるいは,法定相続分にしたがって,各相続人が何分の1かずつ取得したという共有登記をしなければならないことになります。

もっとも,法定相続分で共有登記したとしても,土地の売買の際には,買主は結局そこに登記された共有者全員と売買契約を結ばなければならなくなりますから,大変な手間になり,売買がスムーズに行かないことには変わりありません。

【法定相続分とは?】

ここで,法定相続分について説明しますと,

各法定相続人の取り分(相続分)は次のようになっています(民法900条)。

①相続人が配偶者と被相続人の子供の場合⇒配偶者2分の1、子供2分の1

  ↓子供がいない場合

②相続人が配偶者と被相続人の父母の場合⇒配偶者3分の2、父母3分の1

  ↓子供がおらず,父母も亡くなっていていない場合

③相続人が配偶者と被相続人の兄弟姉妹の場合⇒配偶者4分の3、兄弟4分の1

なお、子供、父母、兄弟姉妹がそれぞれ2人以上いるときは、原則として均等に分けます。

例えば,相続人が妻と2人の子供の場合,配偶者である妻が2分の1,2人の子供が残りの2分の1をそれぞれ均等に4分の1ずつ相続することになります。

また,相続の際に,すでに子供が亡くなっているときは,その子である孫が相続します(代襲相続といます。孫がなくなっていたら曾孫へと,代々相続されていきます。

兄弟姉妹が相続人になる場合に,兄弟姉妹がすでに亡くなっているときは,その兄弟姉妹の子供である甥姪までは相続されますが,それ以上は相続されないことになっています(甥姪の子供は相当遠縁になるので相続しません)。

【時間が経てば経つほど相続人は増えてゆく!】

このような仕組みになっていますので,遺産分割がなされないままで,ある土地の登記が父名義のままに残されていて,母もなくなってしまったという場合には,子供たち全員の間で遺産分割協議(厳密には父母両方の遺産についての協議)をすることになります。

この場合,子供たち兄弟姉妹の間で遺産分割協議がうまく進めばいいのですが,それぞれに配偶者や子供がいたりすると,様々な思惑が入り込み,なかなかうまくいかないこともあります。

また,土地の登記が祖父(おじいさん)の名義のまま残っていて,遺産分割協議がなされておらず,その子(父母や叔父叔母)は3人いたがすでに亡くなっており,現在,孫(従兄弟)が9人いるといった場合には,さらに大変な事になります。遺産分割協議がなされていない以上,法律上はこの9人の従兄弟がその土地を9分の1ずつ共有しているということになり,これらいとこ同士の間で遺産分割協議をしなければならない=9人から実印をもらわなければならない,ということになります。

いとこ同士で疎遠になっていたり,全国各地や海外に居住していたりすると,合意を得る以前に,住んでいる場所を突き止めて連絡すること自体,大変な事になります。連絡先が分からない方がいた場合,戸籍や住民票を調べて連絡することになりますが,住民票の場所に住んでいなかった場合などは,連絡することすら困難です。

さらに,子供や孫がたくさんいるといった場合には,20人以上の実印が必要になるなどといった場合もあり得ます。そうなると,事実上所有者(持分権者)全員に連絡し,遺産分割協議に同意してもらい,全員の実印,印鑑証明書を集めて,遺産分割協議書を作り,登記名義を変えるといったことは,かなり厳しくなってきます。このようにして,登記名義を変えようがない土地,登記簿を見ても現在の所有者が分からない土地が出てきます。

また,相続人のうち,その土地を現在管理している人がいる場合には,まだその方が発起人となって,登記名義を変えるべく遺産分割協議をやってみる,相続人に連絡をとってみるといったことも可能ですが,誰も管理していない忘れ去られたような土地については,そもそも登記名義を是正しようと考える人すらいません。そのような土地は,所有者が誰か調べる機会すら生じないのです。仮に,その土地を買おうとする人が出てきても,誰が所有者(持分権者)か,調べるだけでも大変な費用と労力です。

登記が放置されていた場合,後から相続登記をするのは本当に大変な労力を必要となります。特に長期間放置すればするほど,相続登記が不可能になるケースも増えてきます。もし,亡くなられた祖父母,父母の名義のままの土地が残っていた場合,相続人の間で連絡が取れるうちに名義変更をしておくことに越したことはありませんし,それが自らのお子さん,お孫さんのためにもなります。

(その4に続きます)