【いわゆる3つの公的評価額の相互関係~1:0.8:0.7】
1 相続税路線価=8割評価,固定資産税評価額=7割評価
地価公示・地価調査価格,国税(相続税)路線価,固定資産税評価額とも,それぞれの役所(国土交通省や都道府県,国税庁,市町村)が設定した標準宅地(1つのまとまった地域(状況類似地域といいます)の中に1箇所選定される宅地)について,不動産鑑定士に委託して,評価を行い得られた評価額が基礎となっています。
これらの公的評価額の相互関係としては,一般に,
地価公示・地価調査価格(鑑定評価額≒時価):相続税路線価:固定資産税評価額は,1:0.8:0.7の関係になっているとされています。つまり,相続税路線価は時価の8割,固定資産税評価額は時価の7割とされ,時価より低めに評価されているということになります。
この理由は主に,相続税路線価は年1回(1月1日時点)の評価,固定資産評価は3年に1回の評価なので,評価完了後に地価が上昇して,次の評価までの間に時価を超えてしまうことのないよう,大事をとって低めに評価されていることによります。最高裁の判例によれば,評価額が時価を超えてしまっていた場合,その評価額に基づく課税は無効になるとされています。
以上のことから,不動産の時価の水準を知りたいという場合には,相続税路線価を0.8で割り戻したり,固定資産税評価額を0.7で割り戻すということが一般的に行われています。
すなわち,相続税路線価が1㎡当たり8万円であれば,時価を8万円÷0.8=10万円,固定資産税評価額が1㎡当たり7万円であれば,時価を7万円÷0.7=10万円,として把握するということになります。
2 何でもかんでも「1:0.8:0.7」の関係になっているわけではない!
ただし,気を付けていただきたい点は,地価公示価格(≒時価):相続税路線価:固定資産税評価額の間の,「1:0.8:0.7」という関係が,どんな場合でもあてはまるというわけではないことです。
まず,時期的な限界として,いわゆる固定資産税評価額の「7割評価」は,平成6年(1994年)の,固定資産税の評価を公示価格の7割にするという自治省(現総務省)からの通達で導入されたものであり,それ以前の時期には当てはまらないということがあります。つまり,平成元年とか,昭和○○年の土地の時価について,その年の固定資産税評価額を調べて0.7で割り戻しても,おそらくとんでもなく低い額にしかならないと思われます。
かつては,それぞれの役所が算定した3つの公的評価の関連性が乏しく,さらには実際に売買される実勢価格とも乖離していると指摘され,土地は「一物四価」,すなわち,1つのものに4つの価格があると揶揄された時代もありました。
また,宅地ではない,農地(田畑)や山林等には,「1:0.8:0.7」の関係は当てはりません。田畑,山林等の固定資産評価額は別の基準によっているからです。実際には,農地や山林は,政策的に時価の数%~20%以下に評価額が抑えられているのが通常です。国税庁財産評価基準「評価倍率表」を見れば,どの程度低い水準に抑えられているかが分かりますが,ここではその詳細は省略します。田畑,山林については通常広大な土地が課税の対象となり,通常の水準で評価をした場合固定資産税の負担が相当大きくなるため,営農や営林の継続を阻害しないよう,政策的に,時価よりも相当低い水準に固定資産評価額を抑えているものと考えられます。
さらに,宅地についても「1:0.8:0.7」の関係が当てはまらない場合があります。相続税路線価や固定資産税評価額は,たしかに時価の目安にはなりますが,本当に個々の土地の特徴・個別性を考慮した評価額になっているかは疑問もあります。特に,道路に接面していない無道路地やがけ地など,特殊な土地については,路線価や固定資産評価額の減価率(標準的な宅地から減額補正をする率)は市場の実態に合っておらず,不動鑑定評価をしたときの評価額よりも,相当高めの額が評価額になっているケースも散見されます。
そのような場合には,税務署や市町村に対して,不動産鑑定評価額などを根拠に,相続税の評価額や固定資産税評価額が時価を上回っていると申入れ,税額の是正を求めることも考えられます。