【不動産価格についての情報源は?(その4)】
6 不動産鑑定評価額
不動産の価格の情報源の最後に,不動産鑑定評価にも触れておきます。不動産鑑定評価については,詳しくみてゆくと膨大な内容になりますので,ここでは概略にとどめ,また機会を改めて述べてゆく予定です。

【不動産鑑定士・不動産鑑定評価とは】
不動産鑑定評価額は,「不動産の鑑定評価に関する法律」による国家資格を持つ「不動産鑑定士」が,国が示した不動産の評価方法である「不動産鑑定評価基準」に基づいて評価を行い,決定した評価額です。
この「不動産の鑑定評価に関する法律」には,「不動産の鑑定評価とは,不動産(土地・建物又は所有権以外の権利)の経済価値を判定し,その結果を価額に表示することをいう。」,と定められており,これを「不動産鑑定士」が行うことが決められています。つまり,国により,不動産の経済価値を評価する専門家として唯一認められている資格が,「不動産鑑定士」ということになります。
実際,訴訟や調停など裁判所の手続では,不動産の価格や賃料の争いがある場合などについて,最終的には不動産鑑定評価書に記載された評価額に基づいて判断されることが多いです。例えば,議論がこれ以上進まなくなったような場合には,裁判所から,不動産鑑定評価を不動産鑑定士に依頼して,その結果で双方納得することにしませんか,という提案がなされることがあります。
裁判所の手続で,証拠として,宅建業者が作成した査定書を提出したり,弁護士が自ら作成した価格意見書を提出したとしても,証拠としての影響力は不動産鑑定評価書に遥かに及ばないのが実情です。宅建業者の査定書や,弁護士の意見書の価格は,国が定めた専門家である不動産鑑定士の判断ではなく,また,国が示した評価方法の基準である不動産鑑定評価基準に基づくものでもないため,それが妥当な価格であるという保証がないからです。
また,税務署など官公署に,不動産の評価額について申出をする場合の根拠資料としても,同様の理由から,不動産鑑定評価書が最も説明力のある資料となります。
さらに,多くの利害関係者にとって,納得できる公正な価格が必要とされる場合,例えば,会社に対して不動産を元手として出資する=現物出資や,不動産投資信託(REIT)などで不動産を取得するような場合には,不正により利害関係者が損害を受けることのないよう,公正な価格で資本に組み入れたり,保有資産に組み入れたりすることを確保する必要から,法律によって,不動産鑑定士による鑑定評価が必要とされています。
これらの任務を担う不動産鑑定士の社会的役割は重く,中立・公正な立場で評価額を決定することが求められています。

【不動産鑑定評価の必要性~不動産の価格はネットで誰でも分かるか?】
「不動産の価格の相場や,賃料の相場なんてネットで検索すれば分かるから,不動産の鑑定評価なんて必要なの?」という見方もあります。実際,新しく造成された住宅団地の売り出し価格などは相場がはっきりしているケースもあります。
しかし,不動産は1つとして同じものはなく,権利関係も複雑なことが多く,周辺地域のある程度の相場は分かっても,実際にある1つの土地の評価額を決定することが難しい場合や,そもそも地域の相場自体はっきりしない場合など,価格を判定することは容易ではないのが実際です。

土地についてみると,同じ地域にある土地だとしても,面積の大小,形状の違い(長方形か,不整形かなど),間口と奥行の関係(うなぎの寝床か否かなど),前面道路の幅,角地か否か,道路との高低差はあるか,土地の前または中に電柱がないか,など各土地のもつ個性によって価格は異なってきます。
また,特殊な土地,例えば,a細い通路の奥にある土地(旗竿地),b道路に接していない無道路地,c1つの土地の中に段差がある土地,d一部に崖を含む土地,e高圧線が上空を通っている土地,f役所から道路予定地と指定されている土地,g土地区画整理が行われている土地,h周りは高層の建物が建ち並ぶ中,平屋の古家が立っている土地,など,どのように価格を判定すればよいか容易でない土地は無数にあります。単純に,近くの土地が1000万円で売れたからうちも…とは限らない場合も多いのです。
さらに,権利関係が複雑なもの,例えば,a他人から土地を借りている場合の借地権の価格,b他人に借地として貸している土地(底地)の価格,c山にトンネルを掘る部分や市街地の地下部分のみを取引するときの価格(区分地上権),d相続人の間で共有になっている土地の共有持分を売買する時の価格,など,1つの土地に多くの権利が絡んでいる場合などについては,それが価格にどのように影響するか,相当複雑な考慮が必要となり,土地価格の相場が分かっていたとしても,なんとも判断しづらい状況があります。
このような場合には特に,不動産鑑定士が不動産の権利関係を詳しく調査し,さらに市場の動向・価格を形成する要因についての資料を集め綿密に検討して,不動産の鑑定評価を行う以外の方法で,納得のできる適正な評価額を得ることは困難です。

なお,賃料を例にとれば,新規賃料(これから新しく賃貸借する場合の賃料)はある程度の相場が分かるとしても,継続賃料(すでに継続して賃貸借されている場合の賃料)を変えたいという場合に,いくらが妥当なのかについては,支払った敷金・礼金の額やこれまでの賃貸借の経緯(修繕を実際に誰の費用で行っていたか,貸主が借主を優遇して低い賃料で貸していたかどうかなど),過去に交わされた契約書や覚書の内容に特別な規定がないか,などを詳しく検討しなければ,貸主・借主双方にとって改定すべき適正な賃料がいくらかは分かりません。

不動産鑑定評価額は,原則として,
ⅰ原価法による積算価格(造成・建築費用等の積み上げによる価格へのアプローチ),
ⅱ取引事例比較法による比準価格(取引事例による価格を補正してゆくアプローチ),
ⅲ収益還元法による収益価格(賃料等の収益をベースにした価格へのアプローチ),
という3つのアプローチによる試算価格を算定し,それらを吟味・調整して,評価額を決定することとされています。
不動産鑑定士は,日本不動産鑑定士協会連合会のデータベースにより,大量の取引価格や賃料のデータにアクセスし,また,自ら有する不動産の利回りに関するデータや,各種建築費・造成費の資料や市場動向に関する資料を収集分析し,経験値を駆使することによって,これら不動産鑑定評価を行います。
不動産鑑定評価の詳細については,機会を改めてまた述べてゆく予定です。