定期建物賃貸借契約(定期借家契約)について,賃貸人(大家さん)からの中途解約はできるのでしょうか。
【原則:中途解約はできない】
借家人からの中途解約の場合と同様,「期間の定めがある」借家契約に関しては,普通の借家契約であるか,定期借家契約であるかを問わず,原則,契約期間の途中に解約はできないのがルールです。
【例外的に中途解約ができる場合はあるのか? ~合意がなければ極めて難しい】
では,例外的に大家さんから中途解約ができる場合はあるのでしょうか?
大家さんと借家人の間で中途解約についての合意ができれば,双方納得のうえですから中途解約はできます。
しかし,このような合意ができない場合には,大家さんからの中途解約は極めて難しくなります。ですので,大家さんの都合で中途解約をすることは極めて困難ということを前提に,契約期間や入居にあたっての審査を慎重に行う必要があるとお考えいただきたいと思います。
以下の記載は裁判例や学説の見解などやや複雑ですので,ご興味のある方はご覧いただければと思います。
【中途解約ができるという条項(解約権留保特約)があっても難しいのか?】
賃借人からの中途解約と同様,定期借家契約の中に,大家さんからも中途解約ができるという条項(解約権留保特約)を置いておけば,中途解約ができるのでは?という疑問も当然湧いてきますが,これについても極めて難しい問題があります。
この問題についての裁判例として,東京地裁平成25年8月20日(平成24年(ワ)第27197号損害賠償請求事件)があります。この判決で,裁判所は,「定期建物賃貸借契約である本件契約において,賃貸人に中途解約権の留保を認める旨の特約を付しても,その特約は無効と解される(借地借家法30条)」と述べています。つまり,定期借家について,大家さんから中途解約できるという特約は,賃借人に不利な特約であるから無効としているのです。ですので,この判決をみる限り,大家さんから中途解約できるという特約は無効であり,そのような特約を置くことには慎重になるべきと考えられます。
もっとも,この東京地裁の判決の結論には批判も多く,賃貸人が中途解約できるというる特約を有効とする説も有力です。この点に関する最高裁の判例もまだないことから,いまだ確定的な答といったものはありません。
【中途解約ができるという条項(解約権留保特約)が有効だとしたら,解約できるか?】
では,もし大家さんから中途解約ができるという特約が有効であったとしたら,中途解約は簡単にできるのでしょうか?
これについては,定期借家契約における,大家さんからの解約申入れについても,「正当事由」が必要となるのか(借地借家法28条が定期借家契約にも適用されるのか),という点が問題になります。
この点についても,いまだ確定的な答といったものはありません。
なお,「正当事由」の有無は,大家さんがその建物を必要とする事情,借家の経緯,建物の利用状況・現況,立退料の提供などを考慮して判断されます。ですので,「正当事由」が必要ということになれば,立退料の支払も避けては通れない問題となります。
考え方としては,借地借家法には,定期借家については借地借家法28条を排除する規定がなく,借家人を保護する必要からも,同法28条の規定が適用され,大家さんからの中途解約の申入れには「正当事由」が必要とする考え方が有力です。
他方で,定期借家では,同法38条1項の文言から同法28条も排除されると考え,正当事由は不要とする考え方もあります(田山輝明・澤野順彦・野澤正充編『別冊法学セミナーno.230新基本法コンメンタール借地借家法』(新日本評論社2014年5月)233頁)。いまだ定説というものはありません。
以上のような状況ですので,大家さんの立場からは,定期借家契約の締結に当たり,中途解約について,東京地裁の判決も踏まえた慎重な配慮が必要となると思われます。